最後のメッセージ

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練習が終わると、会社の食堂で夕食が準備されていた。 毎日のことである。 食事の献立は、橘コーチが考えたものらしい。 いつものおばさんが用意してくれた。 おばさんは、いつも笑顔で、なごやかな雰囲気を持っていた。 だから私は、おばさんを本当のお母さんのように慕っていた。 食事をしていると、おばさんがテーブルの私の前の席に座って、笑顔で話しかけてきてくれた。 「若林君、練習大変そうだねぇ?」 私は答えた。 「えぇ、まぁ大変です。  でも、頑張らないとね。」 おばさんが、ねぎらいの言葉をかけてくれた。 「あまり無理しちゃだめよ!」 おばさんに言われると、なぜかほっとするのが不思議である。 おばさんの話は続いた。 「この前ね、橘さんとお話しすることがあってね。  橘さん言ってたよ。  若林君は、テニスのセンスがいいって。  でもね、本番の試合で、自分が持っている力を発揮できていないんだって!」 私は、おばさんに疑問をぶつけた。 「橘コーチは、前から自分のことを知っていたということ?」 おばさんが答えてくれた。 「橘さんは、全日本テニス選手権男子シングルスの試合で、若林君のプレーを見たんだって。  この時、若林君はテニスのセンスがいいと思ったらしいよ。  そこで、自ら会社に若林君のコーチを申し出たらしい。  だから、コーチのお金は、会社からもらっていないって言ってたよ!」 私は、驚いた。 「えっ…そうなの?」 私は、橘コーチは会社から雇われて、私のコーチをしているとばかり思っていた。 食事を終えた私は、おばさんに、 「おばさん、ありがとね。  おいしかった!」 とお礼を言って、食堂を出た。
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