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夫にも妻にも息子にも一族の誰にも似ていない。
我が子・妹なので愛しい。しかし、吸血鬼一族の一員として家族がうつくしくないことは許せなかった。彼らにとって「うつくしくない」=「悪」なのだ。
成長する内に……というかすかな期待も、夏来が中学校に上がる頃にはなくなり、家族の期待は、夏来本人ではなく、夏来が生む子どもに移った。
より良い美遺伝子を残すために、夏来には絶世の美男子と契りを結んでもらう必要がある。
すべては夏来のため。一族の誇りのため。
夏来もそのことが分かっているため(ほとんどは、面倒くさくなって)、放置していた。
まだ、恋をしたことがないからかもしれない。
結婚なんて、遠い未来のことのようでピンとこない。
なので今は、好きなようにさせていた。
チラリと時計に目をやると、8時3分。登校時間だ。
聞こえてはいないだろうが、「行ってきます」という言葉を残してリビングを出る。
夏来がいなくなったリビングでは、まだ家族会議が続いていた。
「結婚と出産は、今やどこの世界でもビジネスだよ。1発いくらの世界なんだ。優秀な精子を販売する会社もあるらしいし」
「下品よ、冬来」
「でも、確かにそうだ。夏来は、残念ながらあのような容姿だ。我ら一族は、何よりも
“美”を大切にしている。そんな中で、無条件で夏来のような者を受け入れてくれる勇者がいるかどうか。金か……」
とうとう達郎は頭を抱えたが、いつものことである。だいたい会議は、良い案が浮かばないまま終了する。しかし今日に限っては、この先が、いつもと違った。
「そうだわ!」
ロージャが、突然に閃いたのだ。淡いグリーンの瞳をきらきらと輝かせる。
「リリスのところの子どもが、人間と結婚したと、この間、報せが届いていたのを思い出したわ」
「そうか、その手があった。私は、純血にはこだわらない」
「人間でもかわいい娘はいっぱいいるよ。男は、分からないけど」
達郎と冬来も身を乗り出してうなずく。
「人間ならお金もかからないわ」
「ごねたら洗脳しちゃえばいいしね」
「決まりだな」
顔を見合わせ、微笑むと鋭い歯が妖しく光る。
3人はワインで乾杯し、愛すべき家族の明るい未来を祝福した。
「クシュン!」
迫力のある大きなくしゃみに、休み時間でにぎやかだった教室が、瞬間、静まる。
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