第1章

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 まったくもってその通り。大也は大きくうなずきかけ、譲は、ぐぅとアゴを引いた。  最初からふたりの交際には、反対だった。  12歳の年の差はもちろん、反対する1番の理由は、譲本人そのものといっても過言ではない。   とにかく譲は、やさしすぎた。老若男女を問わず、もちろん動物にも。雪野は、それこそが彼の長所だと褒めたが、大也には、やさしさの安売りをしているようにしか見えなかった。結果、これだ。  半年前。  街で困っている女性がいたので、当然のように声をかけた。これが、いけなかった。  彼女は譲のやさしさに感動し、助けてくれたお礼がしたいと、半ば強引に連絡先を交換した。長身でゴールデンレトリバーのようにやわらかい顔立ちは、一部の女性を強く惹きつける。彼女の一目ぼれだったようだ。ここで終われば単なるいい話、よくある平凡なラブストーリーにすぎなかったが、話はそこで終わらなかった。何と偶然にも、彼女の父親は、譲の仕事先の上司だったのだ。  じわりと、けれど確実に外堀から埋められていき、気がついたときには、逃げられないところまで追いつめられていた。 「子どもがデキたみたいなの」  彼女の告白は、譲にとって死の宣告に等しかっただろう。何しろ酔ってそのときのことをまるで覚えていないというのだから(自業自得である)。けれど、自分で撒いた種だ。しかも、相手は上司の娘。譲は、責任を取るしか他なかった。けれど、ひとつ問題があった。  譲には別に、付き合って1年になる恋人がいた。それが、雪野だ。  嘘の上手な譲ではない。雪野もきっと、気づいていたはずだ、この半年の恋人の変化を。  気づいていて目を逸らし続けた雪野。  人の好いフリをして泥沼にハマっていった譲。  どっちもどっちだ。  BGMが別の曲に変わったところで、再び譲が口を開いた。 「でも、生まれてくる子どもに罪はないだろう」  ポツリとテーブルの上にこぼす。今になって甘え、すがるような姿に、雪野は右眉を上げた。 「じゃあ、私はどうなるの」  そのひとことから、思いが溢れ出す。 「嫌いになったわけじゃないけど、別れてほしい? 別に付き合っている人がいて、彼女に子どもがデキた? ふざけないで。今までの私たちの1年は、一体、何だったの。
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