黙っていたうさぎ

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 ある年の夏、おかしなお天気がずっと続きました。晴ればかりで水が足りなくなったり、やっと雨が降り出したかと思ったら、畑に植えたものが根腐れしてしまうまで降り続いたり…。  麦も木の実もあまり取れず、村では食べ物が足りなくなってきました。  隣の村では、森に入る派遣隊を作り、それに志願した動物たちが、森の奥まで食べ物を探しに行くことになりました。森の中にはまだ食べ物がたくさんあるらしく、隣村の派遣隊の動物たちは、いつも、たくさんの食べ物を手に入れてきました。  うさぎさんの村は、みんなでお金を出し合い、隣村から食べ物を買いました。おかげで、以前とほとんど変わらずに、豊かに暮らすことができました。  ある日、隣村のトラの村長さんがやってきました。うさぎさんの村のきつねの村長さんは、丁寧に挨拶しました。 「いつも、食べ物を売ってくださって、ありがとうございます。うちの村の者たちは、本当に助かっていますよ」 「実は、そのことで相談したいのですが…」  隣村のトラの村長さんは、難しい顔をして、ポツポツと話し始めました。  トラの村長さんの話では、森には最近人間が出入りするようになってきていて、彼らと出くわした派遣隊の動物たちの中に幾人かの犠牲者やけが人が出ている、とのことでした。 「我が村民は、命をかけて食べ物を獲得しているのです。それを、幾ばくかのお金と引き換えに、気軽に手に入れ、何の不自由もなく食事を楽しむ、というのは、いかがなものかと思うんですよ」  隣村のトラの村長さんは、うさぎさんの住む村と合同で大きな派遣隊を作ろう、ときつねの村長さんに提案しました。  早速、きつねの村長さんは、村の動物たちを集めて話し合いをしました。 「確かに、隣村が命がけで手に入れたものを私たちは食べるだけ、というのは良くないよね。うちの村も派遣隊に参加するべきじゃないかな」  と、若いいたちさんが言いました。 「食べ物を探しに行って死んじまったら、何にもならん。村の中で食べ物をもっとたくさん作る方法を工夫すべきじゃないかね」  と、年配のやぎさんが言いました。 「村の中で十分な食べ物を手に入れる方法があれば、それが一番だけど、工夫するといっても急にはできないわ。明日食べるものはどうしたらいいの?」  子だくさんのねずみさんのママが言いました。  会合に参加していた他のみんなも、どうしたら一番いいかと一生懸命考えましたが、結論は出ませんでした。
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