黙っていたうさぎ

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 数日後、再び隣村のトラの村長さんがやってきました。 「我が村では、5日後に派遣隊を森に送ります。その時は、あなたの村からも何名か参加してもらいたいですな」  きつねの村長さんは慌てました。 「待ってください。まだみんなで話し合っている途中なんです。いままで、こんなことは経験がないので、なかなか意見がまとまらないのです」  トラの村長さんは、軽蔑的なまなざしできつねの村長さんを見据えて、言いました。 「食べ物が少なくなっているという状況で、ずいぶんのんびりとしたことですな。あなたの村からだれも派遣隊に参加しないというなら、今後、あなたの村に食べ物をお売りすることはできません。それで、よろしいですな」  トラの村長さんの恫喝的な物言いに、きつねの村長さんは、困ってしまいました。 「急に言われても、本当に無理ですよ。うちの村の者たちは、今まで森に入ったこともなければ、人間と出会ったこともないのですよ」  ふうむ、と首を傾げたトラの村長さんは、しばらくして、いいことを思いつきました。 「なら、森の中でも、より安全な場所で食べ物を探してもらう、ということでどうですか? 西の森なら、人間は少ないと聞いています。鉄砲を持った人間は、さらに少ないようです。そういう場所なら問題ないでしょう? 二つの派遣隊でそれぞれ集めたものを合わせて、平等に再分配する。これでどうですか」 「なるほど、それなら村のみんなも納得できる」  隣村のトラの村長さんときつねの村長さんは、固い握手を交わしました。  きつねの村長さんは、再び村の動物たちを集めて、隣村の村長さんと話し合ったことを伝えました。  話を聞いた動物たちは、手を挙げて質問しました。 「『安全な場所』とはどういう意味ですか?」  小柄なねこさんが聞きました。 「人間が少なくて、鉄砲を持った人間はもっと少ない場所、ということです。鉄砲を持たない人間は、大したことはできません」 「西の森が、村長さんのいう『安全』な状態かどうかというのは、どうやって分かるのですか?」  少し神経質な性格のたぬきさんが聞きました。 「隣村の村長さんが、安全だと言っていました」 「その話、確かなんでしょうね?」 「もちろん、私たち自身でも調べます」  そう答えた村長さんは、会合に参加していたうさぎさんを呼びました。 「うさぎさん、君は西の森にすむ小鳥たちと知り合いだと言っていたね」  うさぎさんは、長い耳をピクピクと動かしながら、はい、と答えました。  うさぎさんは、以前森に住んでいた頃、森の小鳥さんたちとよく遊んでいました。村に引っ越してからも、彼らとの友情はずっと続いていました。 「小鳥さんたちに、西の森にどのくらい人間がいるのか、そのうち何人が鉄砲を持っているか、できる限り話を聞いて、分かったことを私に教えてくれるかい?」 「分かりました。すぐに聞いてきます」 「頼むよ。君の話を聞いてから、派遣隊を作るかどうか、決めるからね」  うさぎさんは大急ぎで森へ走っていきました。
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