黙っていたうさぎ

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 半日走って西の森に着いたうさぎさんは、小鳥さんたちを呼びました。 「小鳥さん、久しぶり。教えてほしいことがあるんだ。このあたりで人間を見かけることはある?」  色とりどりの小鳥さんたちが集まってきて、一斉に喋り始めました。 「あるよ。最近は多いね」 「木を切り倒したり、畑を作ったりしているよ」 「時々何人かで連れ立って森の中を探検しているみたい」  うさぎさんは、もう一つの質問をしました。 「その人間たちは、鉄砲を持っているか知ってる?」  小鳥さん達は、また口ぐちにさえずりました。 「畑を耕している人は持っていないみたいだよ」 「大きな男の人が持っているのを見たよ」 「三人連れで歩いていて、その中の一人が大きな鉄砲を担いでいるのを見たよ」  にぎやかな小鳥さんたちの話をまとめると、どうやら、西の森にいる人間のうち、5人に2人が鉄砲を持ち歩いているようでした。  うさぎさんは、小鳥さん達にお礼を言うと、いちもくさんに村に戻り、きつねの村長さんの家を訪ねました。 「西の森でも最近は人間が多いそうです。5人に2人くらいが鉄砲を持っているようです」  そうか…、ときつねの村長さんは難しい顔をして、しばらく考え込んでいました。やがて、きつね特有の切れ長の目を細めて、言いました。 「鉄砲を持っている人間が5人に2人、ということは、半分以下ということだね」 「はい」 「なら、危険な場所ではない、ということになるね」 「そ、そうですか?」 「危険な人間が全体の半分以下なんだ。たいしたことできない人間のほうが多いんだ。それはつまり、『安全』ということだろう?」  うさぎさんは、きつねの村長さんの言うことが、どうも腑に落ちませんでした。先の会合で話していた『安全』ってそういうことだったかなあ、と一人でぶつぶつ言っていると、村長さんは急に怖い顔をして、きっぱりと言いました。 「西の森は安全だ。報告ありがとう、うさぎさん」 「でも…」  困った顔で何か言おうとするうさぎさんを、きつねの村長さんは鋭く睨み付けました。 「細かいことにこだわって、いまさら『完璧に安全とは言い切れないから派遣隊は出せません』なんて言ったら、隣村との関係が悪くなって、食べ物を売ってもらえなくなる。そうなったらみんな困るんだよ。とにかく、君は今回の話を誰にもしてはいけない。もし喋ったら、一家そろってこの村を出て行ってもらう」  うさぎさんには、体の弱い両親の他、小さな弟妹もいました。これまで、うさぎさんの一家は、うさぎさんが生活に役立つ話をみんなに教え、みんなから食べ物を分けてもらう、という助け合いの中で、暮らしてきました。  村を追われ、みんなと離れてしまったら、たぶん、家族そろって生き延びることはできないでしょう。  うさぎさんは、泣きそうな顔で、逃げるように家に帰っていきました。
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