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まだ覚えてる?
あの、慌ただしくも楽しかった日々を。
…………………………
「っは……ひゅ、ひゅー……」
意識がはっきりすると、目にはきれいな青空がうつり、肌は風を感じていた。
――ここはどこ? なんで僕はここにいるんだ。
そんなことを考えながら息を整えようとすると、誰かが近くにいたらしく声をかけられる。
「……起きた?」
上から覗き込んできた人は綺麗な黒い髪をした男だった。風が吹く度にさらさらと流れる髪。
ぼーっと眺めていると黒髪の男は首をかしげる。
「気のせい、か……?」
「あ……!」
ちょっと待ってと手を伸ばすと握り返された。
――なんで握り返された?
「ああ、やっぱ起きてたか」
ふにゃり、そう似合う笑顔を男は浮かべる。思わず微笑み返すと、頭を優しく撫でられた。
「大丈夫? 君、川で溺れかけてたんだ」
「そうだったんだ……」
「……名前分かる?」
「僕はフェアズィ。あなたは?」
「俺はリスペルン。フェアズィくんはおうちの場所分かる?」
「いや、僕は旅をしてるから……」
「……その歳で? 君いくつ?」
柔らかく細められていた目が鋭くなる。そのようすに僕は一瞬恐怖を感じた。けど、怖じ気つかずに真っ直ぐ見つめ返す。
「僕は十五歳。もう旅できる歳だよ」
睨むようにして見たら、更に鋭く威嚇するかのように見返された。
「そんな歳でまだ旅なんてできない。送ってもらえるように頼むから家の場所を教えろ」
「なんでそんなこというのさ」
「教えろ」
こっちの質問には答えずにリスペルンはただただ聞いてくる。
「いーやーだー!」
舌を出して、べー、とやれば頭を捕まれた。
「また川に溺れたい?」
背筋が凍る心地がする。お母さんやお父さんに怒られてるときとは違う恐怖だ。
「っ……い、言わないからな!」
腰についてる短剣をつかんで、柄でリスペルンの手を叩こうとする。けれど、その前に頭が放された。
「リスペルン、ガキ起きたかー?」
おっきい男がやってきたからだ。
「……起きた。記憶が混沌としているのか家の場所が分からないみたいだよ」
何を言ってるんだと言う前に口が塞がれた。もがいても放されない。
「あー、こりゃまためんどくせえなあ。とりあえず近くの街まで一緒につれてくか」
「面倒は俺が。ボスは夕飯作りに戻ってて」
ボスはその言葉に頷くと戻っていった。
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