第一話

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
 まだ覚えてる?  あの、慌ただしくも楽しかった日々を。  ………………………… 「っは……ひゅ、ひゅー……」  意識がはっきりすると、目にはきれいな青空がうつり、肌は風を感じていた。  ――ここはどこ? なんで僕はここにいるんだ。  そんなことを考えながら息を整えようとすると、誰かが近くにいたらしく声をかけられる。 「……起きた?」  上から覗き込んできた人は綺麗な黒い髪をした男だった。風が吹く度にさらさらと流れる髪。  ぼーっと眺めていると黒髪の男は首をかしげる。 「気のせい、か……?」 「あ……!」  ちょっと待ってと手を伸ばすと握り返された。  ――なんで握り返された? 「ああ、やっぱ起きてたか」  ふにゃり、そう似合う笑顔を男は浮かべる。思わず微笑み返すと、頭を優しく撫でられた。 「大丈夫? 君、川で溺れかけてたんだ」 「そうだったんだ……」 「……名前分かる?」 「僕はフェアズィ。あなたは?」 「俺はリスペルン。フェアズィくんはおうちの場所分かる?」 「いや、僕は旅をしてるから……」 「……その歳で? 君いくつ?」  柔らかく細められていた目が鋭くなる。そのようすに僕は一瞬恐怖を感じた。けど、怖じ気つかずに真っ直ぐ見つめ返す。 「僕は十五歳。もう旅できる歳だよ」  睨むようにして見たら、更に鋭く威嚇するかのように見返された。 「そんな歳でまだ旅なんてできない。送ってもらえるように頼むから家の場所を教えろ」 「なんでそんなこというのさ」 「教えろ」  こっちの質問には答えずにリスペルンはただただ聞いてくる。 「いーやーだー!」  舌を出して、べー、とやれば頭を捕まれた。 「また川に溺れたい?」  背筋が凍る心地がする。お母さんやお父さんに怒られてるときとは違う恐怖だ。 「っ……い、言わないからな!」  腰についてる短剣をつかんで、柄でリスペルンの手を叩こうとする。けれど、その前に頭が放された。 「リスペルン、ガキ起きたかー?」  おっきい男がやってきたからだ。 「……起きた。記憶が混沌としているのか家の場所が分からないみたいだよ」  何を言ってるんだと言う前に口が塞がれた。もがいても放されない。 「あー、こりゃまためんどくせえなあ。とりあえず近くの街まで一緒につれてくか」 「面倒は俺が。ボスは夕飯作りに戻ってて」  ボスはその言葉に頷くと戻っていった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!