華が笑う 2

11/14
前へ
/336ページ
次へ
〈補足 無月〉  目の前の光景に思わず目を覆いたくなった。芳さんのセフレである丘野がなぜ生徒会室にいるのか。こいつはなぜ梅原生徒会長をバックハグしているのか。  そして、梅原さんはなぜ頬を赤らめ目を潤ませているのか。  全てが最悪だった。  芳さん自身が手にしていた資料を押し付けられた。そして彼が生徒会室から走り去っていく音を聞きながら、深くため息を吐きそうになる。  呆然とした目で一連を見ていた梅原が、ようやく我に帰ったのか席から立ち上がろうとするのを目線で制した。 「最低」  ついでに、言葉でも。  ビクリと震える男は、本来俺の立場では逆らう事など到底出来ない人物であるはずなのに。あからさまに傷ついた表情を浮かべられても謝罪する気になれなかった。 「丘野さん、あんたもだ」  未だ腕を会長に回していた大柄な男は肩を竦めるだけで、何を言うつもりもないらしい。  ……どいつもこいつも、芳さんの気持ちを弄びやがって。  いや、原因はこちらにもあると言えばある。  この状況で一方的に俺が彼らを断罪する事は本当なら能わない。  芳さんと丘野は“セフレ”と呼ばれる関係であり、互いを拘束出来るものではないし、梅原に至っては昔馴染みの知り合いでしかない。  それでも、彼らは、芳さんに好意を向けていたはずではなかったのか。  ……確かに芳さんはその好意を真摯に受け止めてはいなかった。いなかったけど! しょうがないじゃないか、彼の立場ではそうするしかなかったのだから!  それを分かっていて現状を保ってくれるものとばかり思っていたが……何故、いつの間に2人は親密になっていたのか。芳さんに向けていた顔でお互い見つめ合っていたのか。 『そうじゃないかと、思ってた』  考えるより先に、芳さんが呟いた言葉が思い出される。……まさか、彼はこの事を予見して…………?  そうだとしたら、あまりに彼が報われなさすぎる。ギリと2人を睨みつけ、拳を握り締め、そして彼に託された資料を思い出す。  業腹だが、芳さんの努力まで無駄にしては従者の名が廃るだろう。  大股で会長席まで近づき、梅原の前に突き出した。 「……九ヶ崎グループに関する資料です」 「え、くが……なんでそれを」  はっと見開かれた梅原の目元には、よく見れば隈が浮かんでいた。……まぁだからなんだと言う話だが。
/336ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加