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梅原の生徒会勧誘を断り続けていたのは成績を保つ為に必要な事ではあったが、それでも昔馴染みの頼みを断るというのは、芳さんにとって心苦しい事に違いなかったのだ。
だから、編入生に振り回される生徒会を見ていられなかった。
「とにかく、必ず目を通してください。これがあればあの編入生を退学させる事も容易でしょう」
「いつの間に……芳が、これを……」
芳さんだって伊達に大企業の跡取り息子をやっていない。それくらいの事、学業さえなければもっと楽にこなせたはずだ。俺の主人は素晴らしいお方なんだ……だから。
「梅原財閥の御曹司ともあろう方が、なんで手をこまねいていたのか知りませんが」
スイと視線を丘野に移す。いつもの無表情は見慣れたものだが、だからこそその先の笑みが衝撃だった。俺にとっても、芳さんにとっても。
「その理由が、あんたもあんたでよろしくやっていたから、だったら許しませんから」
「っ! ちが、それは」
「弁解なら俺にではなく」
俺と芳さんは背丈が近い。彼の様な美しい顔たちはしていなけれど、梅原は同じ高さからの視線に弱いのかグッと押し黙る。
全く、なんでこんな男が良いんだか……という思いも存分に乗せてため息を吐いた。吐き切って、気持ちを切り替える。
そろそろ主人を追わねばならないだろう。一応、ここに来る前すれ違った鮎田に略式ではあるが護衛の依頼をしておいて正解だった。いかに九ヶ崎が大きな会社であろうとも鮎田のガードを潜り抜けるのは難しい。
この学園に潜り込んでいるのが黒崎望1人だけなのか否か、そこは不確定のままだから、用心に越した事はない。
生徒会室から出る直前、丘野に肩を掴まれたがサッと振り払う。
「あまり無月を舐めないで貰いたい」
強く引き留めたかった訳ではないのか、丘野は振り払われた手をそのままに、こちらを追いかける素振りは見せなかった。だから、振り返らず重い扉を後ろ手に叩き閉める。
梅原は、どうあれ話を付ける為に後日場を設ける事になるだろうが、丘野に関しては訳が分からない。確かに最近芳さんに会いに来る頻度が減っていたが、授業や共にとる昼食中は普段と変わりない様に見えていた。
しかし、今回の件でこいつも警戒対象だ。
体格に差があろうが、立場が大きく違おうが、俺の主人は芳さんなのだから。
「チッ、しくった、急ぎ過ぎたか……」
小さな舌打ちは、無月の耳にも届かなかった。
「華が笑う」 〈第2話〉 了
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