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――そう。これは所謂(いわゆる)、潜入捜査というやつだ。
ドアを閉める音とほとんど同時に、ひとつ溜め息をつく。
脳裏をよぎったのは、家族の顔だった。
決まってしまった以上、準備をしておかなければ。
エレベーターを下り、庁舎を出ようとしたその時だった。数人の護衛を引き連れた男とすれ違う。
あの男は確か……。
生じた疑問。「なぜ彼がこんなところに?」――私の中でそれは、風船のように膨らんだ。
**
――午後5時38分。
我が家を前に、私の頭の中で、これからのことが目まぐるしく駆け巡る。
地面には、去年の花火でアスファルトを焼いた跡が残っていた。
門扉を抜けてすぐ左側にある庭の桜の木。蕾は固く、まだしばらく咲きそうにない。
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