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今年は、この桜が咲くところを見られるのだろうか。
濃い霧に似た見通しのきかないそんな考えも、玄関の引き戸を開けると共に吹き飛ぶ。
「――お父さん!」
一番に駆けて来たのは、今年で10歳になる娘の香緒里(かおり)だ。
香緒里は、30代半ばを過ぎてようやく設けたたった1人の子。
挨拶もそこそこに、彼女は目の前で四角い銀色の箱を掲げて見せた。
「今度はお父さんの番だよ!」
「ああ、そうだったね」
すっかり忘れていた……。私は、後から現れた妻と娘の顔を交互に見て苦く笑い、左頬にある菱形の痣を掻く。
そうだ。今は家族の時間を、そして己の使命を全(まっと)うしよう。
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