御崎レイ

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「おはようございます」 勤務室の扉を開けると、 院長の姿が見えた。 穏やかな表情で私に微笑みかける。 「おはよう。麗しの姫君」 「あら。院長。珍しいですわね。 こんな早く医局にいらっしゃるなんて」 「あぁ。そろそろ、  姫が現れると思ってね。  思ったとおり、不機嫌な顔をしているね」 まるで全てを見透かしたかのように、 私の心を読み取るのは、金山徹。 デンマーク製のメガネをかけ、 どことなく品格漂う凛々しい顔立ちの男は、 この桜木中央病院の院長である。 ふんわり医局を心地よくする バラのフレグランスは、 院長お気にいりのシャンプーの香りらしい。 「申し訳ございませんでした」 「今日は朝から頑張ったね」 金山が鼻歌交じりにニッコリと微笑み、 レイにコーヒーを差し出した。 「私には、何も…」 「私も、何もできなかった。  行ったのにね。現場…」 金山が鼻歌をため息に切り替える。 「院長の管轄ではありません!」   レイが声を荒らげる。 「関東全体俺の管轄だからね。  まぁ、こんなこともあるさ」 院長が何故そんなに穏やかな顔を していられるのかさっぱり分からない。 ポーカーフェイスっていうか、 腹黒いっていうか。 何を考えているのか、全くわからない。 「…それはそうと、  あの、院長、これ、カフェオレですの?」 「ブラックが良かったかい?」 「いえ…」 「カルシウムを取りたまえ。  そんな暗い顔で、病棟を回られると、  患者様がびっくりするだろう。  せっかくの美人が台無しだ。  また、婦長の小言を聞かされちゃうのは避けたくてね」 「す、すみません…そんな暗い顔してます?」 「朝食、とっていないんだろう?」 レイの言葉を止めるように。 金山が、レイの前にプリンツの大きくて 丸いチョコレートを置いた。 「カルシウムと糖分。  不機嫌な顔は、周りに悪影響だ。  早くいつもの姫に戻りたまえ」 「申し訳ありません」 金山は、そう言って、 部屋から出ていった。 私、そんな顔しているのかしら。 image=494678496.jpg
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