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貴方は知っているだろうか。
三十五度から三十七度。
この温度がどれだけ喉に幸運をもたらすのか。
貴方は知っているだろうか。
ほろ苦い、鉄の香りがどれほどの
生命力をもたらしてくれるのか。
ヴヴヴヴゥゥゥゥ
地の底から響いてくるおぞましいうめき声。
どうやら、奴が目を覚ましてしまったらしい。
この醜い声は何故か彼を高揚させるようだ。
「ベル…」
何とも不機嫌な声。華奢な足を組み、
漆黒の革のソファーにもたれかかった白銀の髪をした少年。
彼は私のご主人様である。
彼の掲げる大きなワイングラスにデキャンタされた赤い液体を全て注ぎ切った。
「すぐに黙らせてまいります」
青白い肌に濁った赤い髪。
上品なスーツを身に纏った男とも女とも言い難い姿が、
一瞬にして消えていった。そして、数分後、城には静寂が戻る。
物音ひとつない空間に満足した少年は、
ゆっくりとワイングラスを唇に近づける。
なんて心地良い香りがするのだろう。
悲しい過去の風味が
「フフッ…」
冷ややかな笑みを浮かべ、少年は、残りの液体を飲み干した。
「不味っ…」
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