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カツさんがすぐ隣に座り、
ビールの入ったグラスを重ねてきた。
甘いバニラのような良い香りに、
頭がクラクラする。
飲みすぎちゃったかな。
酔いがまわってしまった気がする。
「ラストオーダーで、お店は…」
「ん? あとは、里子ちゃんと飲むだけ」
「いいんですか?
そろそろ一時を過ぎちゃうのに…」
「大丈夫。まだ、帰らないでほしいな」
カツが里子を一瞥する。
「は、はい」
カツさんが真剣な眼差しで
私の顔を覗き込む。
距離が近い。
どうしよう。
どうしていいのかが分からない。
「それで、何に落ち込んでいたの?」
「別に、改めて相談するほど、
大したことじゃなくて」
「そっか。里子ちゃんは、
頑張りやさんだから。
もっとさ、気楽に。
気楽に生きてもいいんじゃない?」
カツさんの言葉に、涙が溢れてきた。
「あれ? やだな…なんか、すみません…」
「なんか、里子ちゃん、さっきから
謝ってばかりだね」
「そ、そうですね…」
「俺で良かったら、
いつでも話をきくからね」
カツさんの手のひらが私の頭を二度、優しく撫でた。
「あの…」
「どうしたの?」
今しかチャンスはない。今言わないと…
「カツさんは、
彼女いらっしゃるんですよね?」
私は、渾身の想いをこめて
カツさんの瞳を見つめた。
逸らすことなく真っ直ぐに視線を返えされてしまい、
私は直ぐに視線を逸らした。
「いないよ」
ニッコリと頬杖を付き、
私の方を見ている。
「そ、そうなんですね。
あの…私、カツさんのこと…」
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