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静か過ぎる……。
風さえも押し黙ってしまったのか、命あるものすべてが息を呑んでピクリとも動かないでいるかのようだった。空気がねっとり身体に纏わりつき、ずっしりとした重みを感じる。そんな異変を一切感じていないのだろうか、部屋からは気持ちよさげな寝息が聞こえてくる。と突然、重い空気がざわざわと動きを見せた。
コンコン、コンコン。
誰かがどこかでノックする。真夜中にもかかわらず非常識な訪問者が現れたとでもいうのだろうか……。玄関扉の前には、人らしき存在はないようだ。
コンコン、コンコンとノックする。
どこからか不穏な音色を響かせて、コンコン、コンコン……コンコンコンと。
だが、そのノックの音も、どこから聞こえるのか確認する間もなく突然、沈黙してしまった。なにもなかったかのように。
風の悪戯だったのだろうか……ノックの規則正しい連続音が止み静寂が訪れ、寝息だけがこだまする。いや待て、風は止んでいたはずだ。ならなんだというのだ。
空耳だったのかもしれない。
本当にそうだろうか?
確かに、さっきまで聞こえていたのは間違いない、はずだ。
薄暗い闇の中へ吸収されてしまったというのだろうか?
ざわつく重い空気が覆いつくしてしまったというのだろうか?
聞き耳をたてたところで、音の欠片もどこへ行ったのやら……。足跡のように音符でも転がっていれば、音の出所はこいつかと拾うこともできるが、そんなことがあるはずがない。優秀な鑑識官がいても困難だろう。
その代わりと言ってはなんだが、なにやら蠢く影が薄っすら見えてきた。
あれは、いやあいつはと言うべきか。
蠢いているのは、そう、嘉神優希(かがみゆうき)だ。
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