第1章

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「そんなに危ない所じゃないですよ、ここは。ボート部関係の人間しか来ないし」 「それなら、俺、離れて後ろから付いて行くから、それで探せばいい」 「・・・はあ?」  お節介な男の訳の分からない提案に真央は思いっきり間抜けな声を出してしまった。 「あの・・別にそこまでしてもらわなくても・・・あの、家に帰るところなんでしょう? 私に構わず行ってください」 「時間のことなら大丈夫。ここで女の子を一人にしたら気になって授にも身に入らないだろうし・・」  さあ行こうと半ば強引に押される様に真央は歩き始めた。言葉通り間隔を空けて付いて来る男を背中で意識しながらも草むらの向こうまで視線を巡らせてキーホルダーを探す。 「ないなぁ・・・」  七月とはいえそろそろ足元が暗くなってきた。諦めて今日のところは自転車を置いて帰って、明日家からスペアキーを持ってくるかと真央は溜息をつく。 「もういいです、諦めます。探すのに付き合ってくれてありがとうございました」 「いいの?」 「はい・・だからその・・授業に遅れちゃうから行ってください」  さっき男が口にした言葉をそのまま言ったのだが、夕方から授業とは何者なのだと真央は頭の中ではてなマークを浮かべた。 「まだ軽食の時間だから大丈夫。それじゃ俺行くけど、姿が見えなくなったからってまた一人で探しに行かないで。これだけは約束して」  だからどうしてただの通りすがりのアンタにそこまで指図されなきゃいけないの、とふて腐れた真央の表情が見てとれたのか、男は申し訳無さそうに眉を下げた。 「ごめん・・・俺、友達が川で溺れた事があって、それでどうしてもしつこく言ってしまって・・・ホントごめん」 「溺れた? 友達がって・・・ここで?」 「あ・・・いや、そうじゃなくて・・・もっと遠い川でなんだけど・・」  しゅんとうな垂れる男の姿に真央は何か事情がありそうだと気付き、申し訳なく思った。 「あ、じゃあ私、帰ります。・・・ありがとうございました、それじゃ」  居たたまれなくなって真央はかなりの速さで学校まで駆け戻った。自転車置き場に着くと人気が無くなっていた。 「バス・・・は待つの嫌だな。お母さんに迎えに来てもらおうっと」  真央はバッグからすかさずスマホを取り出し操作を始めた。
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