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俺は泣きながら、何度も腕で涙を拭い歩き出した。
暫く歩くと、叫び声が聞こえたが、『振り返るな!』って声が聞こえたから、きっと何かをやっつけてくれたんだろう。
「ねえ……また、会える?」
「……ああ……いつかな。きっと…………」
その声を背中に受け、俺は明るい方へと歩き続けた。
あの時の視線と声に会いたくて、俺はいつからか探し始めた。
元来の持って生まれた性癖も、どうやら影響しているのかもしれない。
思春期になり、あの耳に残る声を、頭を撫でてくれた手を思い出し、何度も抜いた。
だけど、とうとうそれだけに満足できず、俺はあの時の声の主を探し出すため、祭り等で人の集まりそうな場所から、静かな人気のない古い寺まで、暇さえあれば探しに行った。
そして行った先々で、記憶にある声とよく似た男を見つけ、関係を持った。
ある時は野球場で出会ったサラリーマン、ある時は古い寺の30代の住職。
何故だかわからないが、背後からの声を確認したかったことと、恐らく俺自身の疼く身体がそう望んでいたんだろう。
『似ている声かもしれない』と思うと、身体の衝動が止められなくなるんだ。
あの声をもう一度背中に感じたい。
あの手に触れられたい……
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