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自分を顧みずに他人を助ける。そんな破綻した行動理念など、誰が認めてくれるだろう。結局誰からも理解を示してもらえぬまま、オレはここに至った。
きっかけは、幼い時に抱いた喜びにすぎなかった。それを、誰も咎めることなく放置し、オレが続けてしまったに他ならない。
今のオレには外界は見えない。覆面を被せられているからだ。
椅子に座らされ、手足は金属の枷で拘束されている。
ーーそう、電気椅子だ。
知人の罪を被って出頭した結果だ。
オレの人生もあと数分で終わる。
やり残したことはたくさんあるが、後悔はしていない。
“誰かのためになる”
それがオレの決めた、オレの原則なのだから。
その結果で死ぬなら、本望だ。
「これより、刑を執行する。」
重苦しい野太い声が部屋に反響する。
「んん、あふぁふひひふへ。」
あぁ、早くしてくれと言ったつもりが、猿轡のせいで上手く発音できなかった。
最後の言葉にしては中々に滑稽だ。
そして、ビーッという機械音が聞こえた。
最後に聞く音にしては、実に味気ない。
という感慨を最後に、オレという存在の意識は急速に遠のいていった。
だが、オレは確かに聞いた。
女の人の声を。
あれはーー。
オレに、“誰かのためになる”
という原則を生んだ始まりの声。
ーーあら、お友だちのために動けるなんて偉いわね。立派よ、ハルトくん。
優しい、愛しい先生の声だった。
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