プロローグ

3/3
前へ
/11ページ
次へ
自分を顧みずに他人を助ける。そんな破綻した行動理念など、誰が認めてくれるだろう。結局誰からも理解を示してもらえぬまま、オレはここに至った。 きっかけは、幼い時に抱いた喜びにすぎなかった。それを、誰も咎めることなく放置し、オレが続けてしまったに他ならない。 今のオレには外界は見えない。覆面を被せられているからだ。 椅子に座らされ、手足は金属の枷で拘束されている。 ーーそう、電気椅子だ。 知人の罪を被って出頭した結果だ。 オレの人生もあと数分で終わる。 やり残したことはたくさんあるが、後悔はしていない。 “誰かのためになる” それがオレの決めた、オレの原則なのだから。 その結果で死ぬなら、本望だ。 「これより、刑を執行する。」 重苦しい野太い声が部屋に反響する。 「んん、あふぁふひひふへ。」 あぁ、早くしてくれと言ったつもりが、猿轡のせいで上手く発音できなかった。 最後の言葉にしては中々に滑稽だ。 そして、ビーッという機械音が聞こえた。 最後に聞く音にしては、実に味気ない。 という感慨を最後に、オレという存在の意識は急速に遠のいていった。 だが、オレは確かに聞いた。 女の人の声を。 あれはーー。 オレに、“誰かのためになる” という原則を生んだ始まりの声。 ーーあら、お友だちのために動けるなんて偉いわね。立派よ、ハルトくん。 優しい、愛しい先生の声だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加