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「そーれーでー、その怪しげな男とはそれきり?」
Lサイズのコーラをジュッと吸い上げて沙織の目がじっと真央に向けられた。
「うん・・・・何ていうか、親切な人だったんだろうけど押し付けがましい人だったっていうか・・」
「ヤバくない?」
「それはないない。だって身長私と同じくらいだったし・・・それにウチらボート部だよ」
「そりゃそうだけどさ・・・真央がシングルなのも承知だよ。でも用心しなきゃ。失くし物を一緒に探してくれた男の子とラブに───なんて少女マンガの話だよ。現実は人気の無い所に連れ込まれて酷い事されてポイ、なんだから」
「あー・・・・まあそういう危険もあったかもしれないけど、いいじゃんこうして二人でしゃべってるんだし」
話をどうにか終わらせたくて、真央は追加注文をするために立ち上がった。
「え・・・真央、まだ食べるの? 」
「だってお腹すいてるんだもん」
今日の部活練習は水に入らず学校のグランドで基礎トレのみだったが、それでも真央は腹ペコだ。
「太るよー」
友人の呪いの言葉を聞き流してレジカウンターに並びお目当てのバーガーを注文していると、真央は何やら視線を感じた。
それはレジカウンターの奥の方からで、バーガーショップの店員がこっちをチラチラと見ていた。
「あれ?」
ユニフォーム姿で印象は違うがおそらく、今まさに友人と話題に上っていた男だった。
「あの・・」
昨日のお礼を言っておくべきかと声を出したが、真央の前に立つ店員が注文の変更かと勘違いしてまたメニューを広げてきたので、手を振って違うんですと断った。
あっという間にオーダーした商品を手渡されカウンターから離れた真央は席に戻りながら視線を店の奥に向けた。
仕事に徹している男が真央の方を見ることはもうなかった。
「どうしたの? やっぱり食べ過ぎだって自覚した?」
難しい顔で席に戻ってきた真央を見て沙織はだから言ったじゃないと笑う。
「いやそうじゃなくて・・・」
さっきの話聞こえてなかったらいいけど───ちょっぴり不安な気持ちで真央は本日2個目のハンバーガーにかぶりついた。
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