壊れた夢

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 ブロック塀の上に寝転がっていた黒猫が顔を上げてぼくに言う。 「死ね。お前は死ぬべきだ」  ――ぼくは死にたくないよ。 「あなたが壊せば死なずに済むわ」  あの子が言って、猫が笑う。 「もう壊れている。直らない。死ね」  何でなんだろう。  猫は塀から降りてぼくの前の道路に座る。 「植物はただあり続けようとする。それだけで生きている。猫はただ思うように動く。だからやはり生きている。しかしお前はすでにお前ですらない。だから死ね」  わからない。  どうすればいいんだろう。 「壊せばいいのよ」  あの子が言う。  ぼくは自分の手に、何か鋭いものがあることに気づいた。 「そうだ。壊せばいい」  猫も言った。 「削ぎ落とし、剥ぎ取り、切り刻み、突き立てればいい。壊せ」 「壊せ」 「壊せ」  ――壊せ
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