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道路を歩きながら手のひらに乗った玉を眺める。
翼の持ち主の瞳と同じ、優しい緑色をした玉だ。
一見するとガラス玉だが、中では煙のようなものが渦巻いている。
明らかにその辺で売ってる物じゃないと俺でもわかる。
そんなの当たり前か。
「おい、そこの奴」
誰かに話しかけられた。
周囲にあるのは高いビルと民家の真っ黒い犬だけだ。
気のせいか。
「待てよ、無視するんじゃねぇ。聞こえているんだろう?」
犬の口を凝視した。
今、こいつの方から声がした気がする。
しかし、黒犬は気怠そうに番犬をしているだけだ。
「そうか、俺の声が聞こえるならあいつがこの町に来たんだな。」
犬の口が開いた。
不気味極まりないが、話しかけられたので一応返答はしておく。
猛暑のせいで俺の頭おかしくなったんだな。
じゃなかったら、こんなおかしなことあるはずがない。
「何だよ気味が悪いな」
「そーかそーか、それでお前はそれを持っているのか」
こいつも話聞いてないな。
犬に、顎で俺の手に乗っているガラス玉を差される。
腹立つわ、犬のくせに。
犬は納得したように腕の上に頭を乗せると、吐き捨てるようにつぶやいた。
「あの災いの元がここに来やがった。早く追っ払えよ。人間だろ?」
「災いって…一体誰のことを」
「あの珍妙な生物さ。早く追っ払えよ。またあいつに町を焼かれちまう!!」
腕で器用に頭を抱える。
やめろ、怖いわこいつ。
俺の常識ぶち壊してくるんだけど。
「焼くって…」
珍妙な生物であるなら心当たりがある。
今頃家熟睡しているであろう翼の持ち主の他に、
昨日外でぎゃあぎゃあと騒いでいた翼の持ち主の追手だって。
そもそも、なんで俺は犬と喋ってるんだ?
近所の住人から頭がおかしくなった人と思われても仕方がない。
腕時計に目をやるとあと5分で電車がやってくる時間だった。
一人でぶつぶつ話している黒犬に別れを告げ、俺は全速力で駅へと向かった。
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