7/7
前へ
/11ページ
次へ
道路を歩きながら手のひらに乗った玉を眺める。 翼の持ち主の瞳と同じ、優しい緑色をした玉だ。 一見するとガラス玉だが、中では煙のようなものが渦巻いている。 明らかにその辺で売ってる物じゃないと俺でもわかる。 そんなの当たり前か。 「おい、そこの奴」 誰かに話しかけられた。 周囲にあるのは高いビルと民家の真っ黒い犬だけだ。 気のせいか。 「待てよ、無視するんじゃねぇ。聞こえているんだろう?」 犬の口を凝視した。 今、こいつの方から声がした気がする。 しかし、黒犬は気怠そうに番犬をしているだけだ。 「そうか、俺の声が聞こえるならあいつがこの町に来たんだな。」 犬の口が開いた。 不気味極まりないが、話しかけられたので一応返答はしておく。 猛暑のせいで俺の頭おかしくなったんだな。 じゃなかったら、こんなおかしなことあるはずがない。 「何だよ気味が悪いな」 「そーかそーか、それでお前はそれを持っているのか」 こいつも話聞いてないな。 犬に、顎で俺の手に乗っているガラス玉を差される。 腹立つわ、犬のくせに。 犬は納得したように腕の上に頭を乗せると、吐き捨てるようにつぶやいた。 「あの災いの元がここに来やがった。早く追っ払えよ。人間だろ?」 「災いって…一体誰のことを」 「あの珍妙な生物さ。早く追っ払えよ。またあいつに町を焼かれちまう!!」 腕で器用に頭を抱える。 やめろ、怖いわこいつ。 俺の常識ぶち壊してくるんだけど。 「焼くって…」 珍妙な生物であるなら心当たりがある。 今頃家熟睡しているであろう翼の持ち主の他に、 昨日外でぎゃあぎゃあと騒いでいた翼の持ち主の追手だって。 そもそも、なんで俺は犬と喋ってるんだ? 近所の住人から頭がおかしくなった人と思われても仕方がない。 腕時計に目をやるとあと5分で電車がやってくる時間だった。 一人でぶつぶつ話している黒犬に別れを告げ、俺は全速力で駅へと向かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加