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「なんか笑えるな」
淳が駆け寄ってきてそういう。笑っていた。点差も三対二の一点差。一打逆転のピンチ。
「まさか、甲子園の決勝でまたこうなるなんてな」
「ホントそれだわ」
笑った。もう優勝は目の前だ。
これまで決勝に来るまでの間に、幾多の困難があった。雨でグラウンドがぐちゃぐちゃだったり、審判が相手びいきであったり……最後の試合は何もないと思っていたら、最後にこの展開だ。
「何、投げる? やっぱしフォークか?」
県予選の時に投げたフォークが頭に過る。そのフォークを投げて、アウトを取った。ゲンを担ぐのも、ありかもしれない。
けれど、哲也はもう投げる球は決まっていいた。
「俺が超能力者なら、フォーク投げて打たれる未来創るね。いつまでも夢に頼るな、って。真っ直ぐ、内の低め!」
「……ああ!」
そう言葉を交わして、淳は再び構える。あの時とは違う、内側に構えた。初めて見た夢と同じ場所。
そのミットめがけて、哲也は、全力で、ボールを投げた。
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