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 キャッチャーのリード通りに投げられたその球は、快音を残してミットに収まる……はずだったが、快音を残したのは相手のチームのバットだった。  逆転サヨナラ満塁ホームラン。思い描いていた最悪の結末に、目の前が真っ暗になる――。  どすん。間抜けな響きが部屋の中に響く。何が起きたのかわからない。 哲也の眼には、真っ暗な景色、耳に届く、ちくたく、ちくたくと小刻みよくリズムを刻む時計の針の音だけが理解できる現状だった。  頭が、痛い。自分が本来あるべき姿と逆になっていることに気付いた哲也は、のろりと体を起こした。 暗闇に慣れた眼が、今いる部屋を捉え始めた。 「俺の部屋じゃん……」  そう小さく零すと同時に、扉が耳障りな音を立てて開いた。 「どーしたの、お兄ちゃん?」  妹の美雪(みゆき)が顔をちょこんと出して訪ねてくる。 「こんな夜中に大きな音たてて……」と続けられた声に促されて壁に掛けた時計を見る。午前四時を回ったところだ。 夜中の中の夜中。
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