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両親は僕が毎日橋の上で何をしているのか問いただした。
だけど……言えるはずがない。
水の中にいる女の子と話をしに出かけてるなんて。
僕には当たり前に受け入れられる事でも、大人には理解出来ないことだってある。
「これ」はそういう種類のモノだって、それくらいは僕にだって分かる。
だから、嘘をつく。
「橋の上から、川の流れを見ていた。独り言を呟いていただけ」だって。
お父さんは大きくため息をついて。
お母さんは妹を抱きかかえて、眉間にシワを寄せていた。
いいよ、信じてくれなくても。
だから、お願い。
僕の心の安らぎを奪わないで。
別にお父さんとお母さんが、僕に興味を持たなくたって構わない。
放っておいてくれればいいんだ。
「お前がそうやっておかしな行動をとるせいで、お父さん達まで町の人達に後ろ指を刺されるんだ。まったく、妹が生まれたばかりだというのに、どうしてお前はそんなふうなんだ。もうお兄さんなんだぞ。お前のせいで妹まで変な目で見られたらどうする」
メガネの奥から僕を見るお父さんの目は……とても冷たい。
結局のところ、僕は夏休みの間、駅近くにある学習塾の夏休み講習に参加することになった。
そこへ行くには、川とは反対の道を通らなければならない。
しかも手渡された入館票で、生徒の出入りを管理していて、塾への到着時間や授業終了時間を保護者の携帯にメールで連絡するシステムになっているのだ。
これでは塾に行くふりをして、カコちゃんに会いに行くことも出来ない。
それでも諦めきれなかった僕は、いつか監視の目を盗んで彼女に会いに行こうと考えていた。
2週間ほどは真面目に塾に通っていた。
心の中ではすぐにでもあの橋へ行って、水の中のカコちゃんと話をしたかったのだけど、なかなかそのチャンスは訪れなかった。
明日こそは、明日こそは……明日こそはカコちゃんに会いに行こう。
そう思い続けて毎日をようやく過ごしていたある日。
僕は聞いてしまったんだ。
夜中に喉が乾いてキッチンに降りていった時、そこで話をするお父さんとお母さんの声を聞いてしまった。
「ねえ、あの子の事、どうにかならないの? ご近所さんから『息子さん、最近どう?』とか『赤ちゃんいいて大変だろうけど、お兄ちゃんの話も聞いてあげてね』とか、まるで私があの子を放ったらかしにしてるみたいに言われるのよ」
「あいつが何を考えているのかなんて、俺には全然わからないよ」
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