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私の正面で、あの人は慣れた手つきでタバコを吸い始める。
「、、、まだ辞めたいとか思ってんの?」
ちょっと真剣な顔になって、一瞬だけこっちを見ながら、何でもないよって顔で私に問いかけた。
あの人がどんな答えを期待してるのか私は知っている。でも、自分に嘘をつきたくない気持ちも内在している。一瞬だけ間を置いて私の口は動き出した。
「うーん、前ほどではないですよ。退職希望の届けも書いてないし。、、、今は、元気にやろうって思ってますから。」
「そう。なら良かった。君がいないと仕事しにくる楽しみなくなるから。」
「なに言ってるんですか。そうやって、からかうの楽しんでるだけですよね。」
「まーね。若い子いる方が活気があって店としてもプラスでしょ?」
「気持ちはもう50歳くらいですけどね。ははっ。」
「なーにを言ってんの、そんな可愛い顔して。若さだけじゃなくて、綺麗所がいなくなったら華がなくなるって言ってんの。あと、俺の店出す時ヘッドハンティングする約束忘れてないから。じゃあね。」
タバコの火を消したと思ったら、さらっと言い放って厨房に戻っていった。
褒めても何も出てきませんよ。言いそびれた。
言いたいことだけ言って去っていく。私の周りはそんな男ばかりだ。そんな口先だけの約束なんて、信じてないから。別に本気にしてないんだから。
(俺が自分の店開くことになったら瑠衣子ちゃんと吉田をヘッドハンティングしてそのまま連れてくから)
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