第1章

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あの人はいつだって、私を惑わせる。本人はそのつもりはないんだろうけど。 ほら、今だって、ちらっと目が合う。なんで、ほんとそういうのやめてほしい。いつも、厨房からこちら側を観察している。黒縁眼鏡の、少しポッチャリ、観察力に優れていて感受性豊か、たまにおちゃらけて、人当たりがよくてみんなから好かれている、手塚さん。どことなくだけど、昔好きだった物理の先生に似ている。厨房の一番偉い人。職場の飲み会でたまたま近くに座ったら気さくに話しかけてくれて。少しずつ話すようになり、たまに同期も連れて3人でご飯に行く仲ではある。でも公にはしてない。この間の忘年会では、あと数年したら自分の店を持ちたいってキラキラしながら言っていた。 「お疲れ様。今度は何やらかしたの?」 いつもの優しい顔で話しかけてくる。他に人がいない時を狙ってか。私が遅い昼休憩に入るとまかないのスープパスタを届けながら、一番奥15番テーブルにいた私の正面に座った。 「いや別に。大したことない、発注ミスですよ。あーほんと自分嫌になる。はは。」 自分で自分を嘲笑った。あの人の目は見れない。できるだけ元気でいなきゃ、余計な心配はさせたくない。 「まあ、誰にでもあるよね。人間は機械じゃないんだから。失敗しながら学んでいくんだし。ちょっと疲れてたんでしょ?」 「まあ、それはありますけど。でも私の場合、1年目の頃からずっと指摘されてることだから、、、。もう、終わってますよね。ははっ。しっかりしなきゃ。」
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