真面目な影法師

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真面目な影法師

 登校し、席に着いた。  隣席を見るが、今日もそこに席の主はいない。  入学したばかりの時は確かにそこには人がいた。おかっぱ頭の大人しい印象の女の子で、一言二言の挨拶を交わした記憶がある。  だけどその子は一週間足らずで学校に来なくなった。  担任の話では、事故に遭い、入院しているとのことだった。  事故の内容とその子の現状は、見舞いに行ったという中学からの友人達から聞かされた。  怪我自体は大したものではないが、打ち所が悪かったらしく、いまだに昏睡状態が続いているらしい。  もう一ヶ月以上も前に、ほんの数日顔を合わせただけのクラスメイト。だけど俺には、彼女がとても学校に来たがっていることが判るのだ。  空席は窓際で、午後になると教室には日が射し込んでくる。その時に、俺の席に影が映り込むのだ。  着席したおかっぱの影が、日の照り加減で俺の机にまで伸びてくる。最初に見た時は悲鳴を上げそうになったが、どうにか堪えたその後は、害もないし、何より同情心が募って、あえてそのまま見過ごした。  …あれから一年。いまだにあの子は昏睡から醒めず、聞いた話では、休学扱いの留年が決定したらしい。  留年…か。仕方がないけど何だが可哀想だよな。だってあの子の心は毎日学校に来てるんだから。  一年の時の教室を覗けば、今でもはっきりとあの子の姿が窺える。  もう、かつて座っていた席はないのに、それでも、HRさえが終わった教室の、窓際最後尾の席のさらに後ろに立つ彼女の姿が俺には見える。  おかっぱで大人しい印象の、眠っていても学校に気続ける程勤勉なあの子。  早く目覚めるよう、祈ってる。 真面目な影法師…完
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