勝利の世界

8/15
前へ
/34ページ
次へ
藤生side トーナメントは、ABCのブロックに分かれていて、俺はCブロックだった。前大会の成績のおかげでシード扱いのために、俺の初試合は皆より少し遅い。 今日の昼からトーナメントが始まる。午前中の今は開会式真っ只中のはず。 だが、俺は… 「ち、千葉くん。去年の入賞者は開会式にで、出ないと…」 弱々しい声音で中川先生が俺に言った。ここは美術室。 油絵具の匂いが際立って香るのは、俺が今、キャンバスにペイントナイフで油絵具をたっぷりと塗ったくっているせいだ。 ガリガリと絵の具をすりつけながら、俺は視線だけ先生の方へ向ける。 「気分です。絵を描きたい気分だったので」 「気分って…」 中川先生は困ったように笑った。 「に、入賞者はステージの前に用意されてある席に座るんだろう?君がいないと空席が目立つんじゃないかな…?」 俺は無言のまま、赤い絵の具をチューブから捻り出した。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加