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その日、一見してどちらかの国の特殊な『ヤ』か『マ』の字のつく職業に就いていそうな、身の丈は百九十センチはありそうなだいたい三十路前後の男が、成田空港に降り立った。黒のアタッシュケースを片手に出口に向かってズンズン歩いている。
見るからに堅気に見えない金のかかっていそうな濡れ羽色のスーツの上下と、その下のシャツも墨色。表情はまた濃い色のサングラスに隠されていて判別つかないが、顎には髭の剃り残しもない。
黒髪の強そうな髪質の短髪で前髪をオールバッグにし、パーマなのか癖っ毛なのかまでは分からないがムースかワックスで撫でつけていて、もみ上げは少し長めに残している。
素顔をはっきり確認していないうちから、服装という第一印象で距離というか、他人には結界を張られているように感じ、引き結ばれた唇が頑健な意志の持ち主に見える。
柱に身を隠して彼の跡を追い続けるのも、この人ゴミでは厳しい。
「ボス、お帰りなさいませ。」
件の男の前に立ちはだかり頭を下げて荷物に手を差し出した男は、全くその筋の男に見えないので、もしも彼がゴツい体育会系な男だったら安直な結論に飛びつけたのに、その後の二人の行動で僕は混乱した。
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