球技大会

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 ショートの速人はマウンドに向かう。  ピッチャーに声をかけると肩で息をしていて限界のようだった。  そして投手交代となる。 「ここに来てまた邪魔する気か」  達也がバットの先を速人に向けながら言った。  投球練習を始める。  速人が投げたボールがミットに入った瞬間、ざわめきが起こった。  130キロは超えている。久しぶりにしては悪くないと速人は思った。 「八尋さん、手が痛いっすよ」  そう言いながらも何とか取っている仁科のキャッチングはなかなかのものだ。  速人は手首を回す仕草をして、捕手の仁科に変化球を投げることを伝える。  次はスライダー。最後にカーブ。  その後、何球か直球を投げる。  最後に仁科と簡単なサインを決め、準備は完了。  速人はセットポジションから一球目を投じた。  内角高めのストレートに達也が空振りをする。 「この野郎め。俺なら当ててもいいとか思ってるだろ」  速人はそれには答えず二球目を投げる。  今度は外角へカーブを投げる。  泳ぐように空振りする達也。  次はボールになるスライダーを投げるが、これは何とか達也が見逃した。  もう一球ボールを投げる。これも何とか達也はバットを止める。  次に速人が投じたストレートは外角一杯に決まり、達也は手が出なかった。  球審の逸見の手が上がる。見逃し三振。  大きな溜息が相手チームの応援席から聞こえる。  次のバッターはニコ。  まずは直球と速人は一球目を投じた。  ニコはそれをいとも簡単にとらえた。大きな当たりがレフト線へ飛んでいく。  大ファール。もう少しタイミングが変わっていたらホームランだった。  慌てて捕手の仁科が、マウンドに駆け寄る。 「どうしますか? ニコさんにストレートはヤバいです。全然、スピード負けしてないっすよ」  ミットで口を隠しながら仁科が言う。 「だね。変化球でいこう」  やはりニコのやつは侮れない。  速人は内心、ヒヤヒヤしながらボールを指で回す。  そしてサインが決まる。
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