球技大会

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 カーブをボール気味に投げた。  ブンという音がして、ニコは大きく空振りする。  ボールとバットがかなり離れている。  なるほど。そういうことか。  速人は勝ちを確信した。  ニコは変化球を打てない。と言うより直球しか打てないのだ。  最後はスライダーでも投げるか。  速人がそう思っていると、達也の声が聞こえた。 「ひきょうものー、男だったらストレートで勝負しろや」  大きな声で叫んでいる。  そのうちに相手の応援席からも同じような声が上がり始めた。  達也は手拍子を始め、みんなを扇動している。 「スットレート!」の連呼。  お前ら、野球知らねえだろ。  速人は心中で毒づくが、声は一向にやむ様子はない。  茜まで一緒になって大笑いしながら叫んでいる。  こうなると速人は逃げられなくなった。  大きく息を吐き、渾身のストレートを放った。  それまでよりも速く、そしてスピンが掛かったストレートがミットへと向かう。  ニコがバットを振る。  ガキン。  大きな音がする。  そのボールはニコのバットに当たり、そして真後ろに飛んでいった。  おおーっと歓声が上がる。  ファールだが速人は焦っていた。タイミングは合っている。  再び「スットレート!」の合唱が始まる。  速人はふと応援席の涼子を見た。  彼女は速人の視線に気付き、強く頷いた。  そして速人はあることを思い付く。  久しぶりだがコントロールできるだろうか。  投球動作に入り、思い切り腕を振った。  ニコがバットを振ろうとする。  しかしタイミングがまったく合わない。  ニコのバットが空を斬り、それから遅れてボールはミットに吸い込まれた。  ゲームセット。  ニコは無言でバッターボックスから去って行く。  達也がブーブーと文句を言っている。 「遅いストレートだぜ」  速人は達也に向かって言った。そして思い切り舌を出して笑った。  仁科とハイタッチする。 「いやあ、ここでチェンジアップとは流石です」 「遅いストレート」 「えっ、チェンジアッ……」 「遅いストレート」 「でも、チェンジアップって変化球じゃ」 「遅いストレート」 「……素晴らしいストレートでしたね」  苦笑交じりで言う仁科に速人は片目をつぶった。
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