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「先に帰ってていいよ」
待っていてくれようとする三人に向かって言う。
たまにある部屋長会議というやつだけど、これは三十分くらいで終わる。
担当教官である逸見さんから色々な連絡事項が伝えられるだけだ。
わたしたち部屋長はそれを同室の仲間に伝えるだけ。そんな簡単な仕事だ。
でもわたしにとっては楽しいイベント。
速人君も部屋長なのだ。
そう思って彼の姿を探したけれど、どこにも見当たらなかった。
彼は授業中、いつも眠そうだし、ぼけーっとしていることが多い。
だから逸見さんの言ったことを聞いていなかったのだろう。
「あれ? 八尋はどうした?」
逸見さんが部屋を見回しながら尋ねた。
ほかの人たちが首を振ったり、知らないと答えている。
「えっと、何か具合が悪いって言ってました」
咄嗟に嘘をついてしまった。
「そうかあ、それじゃあ仕方ないな」
逸見さんはそれを聞くと軽く頷いてそう言った。
よかった。信じてくれたみたいだ。
そして部屋ごとに割り振られた仕事や、研修内容の変更などが伝えられる。
「網谷さ、悪いけど今日の内容を八尋にも伝えておいてくれないか。あいつが具合悪いなら仁科でもいいからさ」
会議が終わり、手帳をバッグにしまっていた時、逸見にそう頼まれる。
もちろんわたしは断るわけがない。むしろ嬉しいお願いだから。
部屋から出て階段を降りている途中に八尋君の携帯に電話をかける。
呼び出し音が聞こえるが、彼は出なかった。
彼は電話に出ないことが多いらしく、男友達にいつも怒られている。
電源を切ってしまうこともあるそうだ。
わたしは少し考え込んだけど、すぐに彼の居場所の見当がついた。
研修所の一階には広間があってソファーなどが置かれている。
人通りもあるし、そこにはテレビも置いてあるのでよく研修生が集まってお喋りしたりしている。
そこにあるソファーで彼はよく寝ている。
色々な人たちがそこを通るのにソファーで堂々と寝ている姿を最初に見た時はつい笑ってしまった。
一度、どうしてそんなところで寝るのかを聞いたことがあった。
「夜さ、あんまりよく眠れないんだよ。でもここだと何故かよく眠れる」
彼の答えの意味はよくわからなかったけれど、それ以上は聞かない方がいい気がした。
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