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彼がそのソファーで寝ている時、たまに茜さんは近くに座ってそれを眺めている。
決して起こそうとせず、まるで宝物でも見ているような眼差しで彼の眠る姿を静かに見守っていた。
その光景はわたしにとっては少し寂しいものだけれど、そんな二人の姿はとても素敵で邪魔しちゃいけないと思った。
今日はどうだろう? 一緒かなあ。
広間に出ると、たくさんの人の往来がある。ソファーの近くのテレビではニュースがやっていて何人かの人がそれを見ていた。
やはり彼はそこで寝ていた。
スーツの上着とバッグが近くに落ちている。ネクタイを外して、それを何故か首に巻き付けてあるが、脱いだ靴はきちんと揃えて置いてあった。
公共の場で堂々と眠る彼の姿はやっぱりわたしの笑いを誘う。
茜さんの姿はなかった。
何となくほっとしてわたしはいつも茜さんが座っている場所に腰を下ろす。
茜さんと同じように彼の姿を眺めてみるが、周りからはどう見られているのだろうか。
多分、わたしが茜さんを見ているのとは違う気がする。
どうしてだろうなあ。何が違うんだろう。
それにしても彼はよく寝ている。
どうして静かな部屋じゃなく、こんな騒がしいところで寝るのかよくわからない。
夜に眠れないと言っていたけれど、どうしてなんだろう?
結局、わたしは三十分以上、ただそこに座っていた。
あまりに気持ちよさそうに眠る彼を起こす気になれなかったから。
そんな時、急に周りが騒がしくなった。
広間から外の通路を見てみると、研修生たちが何かを指差しているのが見えた。
何があるのだろうか。
広間にいた人たちもほとんどが外へ様子を見に行っていた。
とにかく何かが起こっているらしい。
どうしようかと思っていると、速人君の目が急に見開いた。
さっきまですやすやと眠っていたのに人々の動きを察知したのだろうか。彼はいきなり目覚めた。
うわあ、凄い。この人って気配とか感じ取れるのかしら。
「あれ、彩ちゃん。どうしたの? 何かあった?」
彼はいつもと変わらない口調で言った。今ままで寝ていた人とは思えない。
「わたしもよくわからないんだ。外に何かあるみたい」
速人君は靴を履いてスーツを羽織った。
「ちょっと見に行ってみよう」
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