Save the Cat!

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 そして速人君は猫の場所まで辿り着いた。  その出っ張りに飛び降りると、猫に近付いて行く。  猫は毛を逆立てて、怒っているように見えた。  彼は何かを話しかけているが、猫が彼に近付く様子は全くない。  しばらくすると彼はポケットからスマホを取り出した。  わたしのスマホの着信音が鳴る。わたしが出ると彼の声が聞こえてきた。いつもと変わらない口調。 「彩ちゃんさ、ビデオ通話にしてくれない? こいつ俺の言うこと聞きやしないんだ」  彼の言う通りにビデオ通話にすると画面に白い猫の姿が現れた。 「おい、猫。こっちに来い。助けてやっから」  速人君の声も聞こえる。  猫は警戒感たっぷりの表情で睨み付けるようにこっちを見ていた。 「だめだ。俺は嫌われてるらしい。彩ちゃん、頼んだ」  そう言って画面を猫に近付けた。猫の姿が大きくなる。  わたしは猫に向かって話しかける。 「ねえ、猫さん。この人はあなたを傷付けないわ。助けてあげにきたのよ。だから大丈夫。安心していいの」  猫の表情が和らいだように見えた。  恐る恐るだが画面に近付いてくる。そして速人君の手が画面の端から現れた。  見上げると彼が猫を抱えている。 「こいつめ、彩ちゃんの言うことは聞きやがって」 「速人、そっからどうする気だ?」  ニコ君がわたしのスマホに向かって話しかけた。 「どうしよう? こいつを抱えて降りるのは無理だろうなあ」  彼はスマホの画面を下に向ける。  わたしのスマホに写った映像を見てとても怖くなる。  目もくらむような高さだった。 「上に窓があるだろ? そこまで行けるか?」  ニコ君が見上げながら言う。 「行けるか? じゃなく行け、なんだろ?」  そう言って彼は通話を切った。  ニコ君はわたしと仁科君を促し、建物に入っていく。五階まで階段を走り抜けた。 「あの窓だ」  ニコ君が指差した窓に仁科君とわたしは駆け寄る。  それは透明な硬いガラスでできている大きな窓だった。  外を見ると、すぐそばに速人君の姿が見えた。  ちょうど近くにあるパイプにぶら下がっている。  猫は胸の中にすっぽりと収まっていて、彼の身体にしがみついているようだ。  仁科君が窓を開けようとしたが、取っ手がなかった。鍵らしきものもない。  開閉する窓ではなかったのだ。
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