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わたしが慌てていると、ニコ君は仁科君を呼び隣の部屋へ行ってしまった。
すぐにニコ君だけが椅子を持って戻ってきた。
窓に近付き、速人君に向かって椅子を見せる。
速人君は頷いた後、ぶら下がっている場所から少しだけ横にずれた。
しばらくするとニコ君の携帯が鳴る。彼はそれに出ると大きな声で言った。
「行くぞ」
それを聞いて速人君は顔だけを下に向けた。そしてもう一度大きく頷く。
ニコ君が椅子をガラス窓に叩きつけた。大きな音がして窓が割れる。
一気に風が部屋の中に入ってきた。
風の次に速人君が飛び込んでくる。
わたしが恐る恐るそこから下を見てみると、割れたガラスはほとんどが食堂の屋根の上に落ちていた。それにその窓の下付近には誰もいなかった。
「大丈夫だよ。仁科にみんなを離れさせるよう頼んだ」
ニコ君が笑いながら言った。
「ミャーオ」
猫が速人君の胸から飛び出して近付いてきた。
わたしの体に抱き付くようにしてじゃれついてくる。
「こいつ、絶対にオスだろ。この恩知らずめ」
速人君はそんな風に言っているけど、顔は笑っている。
よく見ると首筋に爪痕が残っていた。猫がしがみついたあとだろう。
「さて、どう言い訳するかだな」
ニコ君が割れた窓を見て言った。
「俺は割ってないからな。割ったのはお前だろ」
速人君は悪びれずに言う。
彼の悪戯っ子みたいなこんな表情がわたしは大好きだ。
ニコ君は渋い顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。まあ、無表情だけど。
そして二人はニヤッと笑い合った。
「知らんぷりするか?」
ニコ君がさも名案を思い付いたかのように言った。
「それがいいかも。面倒だしな」
そんなこと出来るのかな?
わたしにはわからないけど彼らはそれでその話を終わらせたみたいだった。
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