Save the Cat!

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 下に降りると仁科君と茜さんの姿があった。 「あら、可愛い猫ちゃんね」  茜さんはわたしが抱いていた猫に向かって言った。  その猫はわたしの胸から飛び降り、笑っている茜さんとわたしとの間で立ち止まった。  そして猫はわたしの元へ戻ってきた。  うん、可愛くてお利口な猫さんだ。 「うーん、やっぱり猫ちゃんも若い方が好みかあ」  茜さんはそう言うが、わたしは由紀ちゃんにだって負けない自信はある。  相手が犬や猫ならね。 「それにしても速人。何のつもりなの? あんな高い場所にぶら下がって。落ちたらどうするのよ」  茜さんの言葉は威圧感があるけど、怒ってはいなかった。  そうなんだよね。いつから見ていたのか知らないけど、茜さんとしては心配だったに違いない。  でも彼女はまず猫に向かって話しかけた。速人君の姿を見るなり問い詰めたりしなかった。  きっと茜さんは速人君の無事な姿を見てまず安心したんだろう。それにもう事は済んでしまっている。  だからいきなり怒ったりせずにワンクッション置いたんだ。  だから怒らないで言えるのだろう。  速人君は頭をかいて首を傾げている。 「いやあ、俺って結構、猫が好きでさ。気が付いた時には助けに行ってたんだよね」  わたしと仁科君は顔を見合わせたけど、二人とも何も言わなかった。  素敵な速人君に素敵な茜さん。  あーあ、やっぱり羨ましいなあ。  見ればもう茜さんは微笑んでいるし、速人君はニコ君と何か話している。  わたしの胸元で猫が鳴いた。  うん、可愛い猫さんだ。頭を撫でてあげると嬉しそうにしている。  地面に下ろしてあげる。 「ほら、はやくおうちに帰りなさい。もうあんなところに登っちゃだめだよ」  猫は頷いたように首を上下させ、何度も振り向きながらその場を去って行った。  わたしの好きな人は「可愛い猫だね」とか「助かって良かった」とかそんな言葉は一切言わずに、もう何事も無かったかのように男友達と話している。  彼が猫を助けに行ったのは、わたしが悲しそうな顔をしていたからだ。  でもそれはわたしのことが好きだからじゃない。  そんなことはわかってる。  でも、嬉しかったな。
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