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わたしの恋は実ることはないでしょう。
いつかこの恋は思い出話の一つになるでしょう。
人を初めて好きになったわけじゃないからそれくらいはわかります。
まあ、いつものことです。
いつかわたしにも素敵な彼が出来るはずです。
そこまで考えて変なことを思い付いた。
速人君と茜さんの間に子供が出来たら、そしてそれが男の子だったら。
きっと素敵な人に違いない。
その人とわたしが……。
年の差を考えましょう。わたしは自分に言い聞かせる。
どうしようもない妄想。
「おーい、おーい、彩ちゃーん」
気が付くと速人君がこっちを見て呼びかけていた。
「今、どうしようもないこと考えてたろ?」
「な、何が? そ、そんなことないよ」
「なんでどもってるんだよ。別に理由はないけどさ。変な顔してたから」
「何だよお、変な顔って。ひどいなあ」
うん、今はこれでいい。
わたしはいつか茜さんのような素敵な女性になり、速人君のような素敵な男性と巡り会う。
今は実らないとわかっている恋だっていいじゃない。
好きな人が近くにいる。
それだけでも素敵なことなんだから。
猫の声が聞こえた気がした。
見るとさっきの白い猫が夕日の手前に座ってこっちを見ていた。
猫の手が小さく上がった。
ばいばい、猫さん。
そしてありがとね、猫さん。
了
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