12人が本棚に入れています
本棚に追加
たくさんのスーツ姿の男女が研修棟の出口から続く通路を歩いていた。
その中の一人、八尋速人は欠伸をしながら途中にあるベンチに座っている。
同室の友人である仁科聡は、同じく友人の川井良太を連れてどこかへ行ってしまった。
仲良くなった同じクラスの女性たちと勉強会をすると言う話だった。速人もいつもは参加するが、今日は面倒で欠席したのだ。
たまには一人でゆっくり過ごすのもいいか。
速人はそんなことを思いながら、タバコに火をつける。
しかし彼の目論見はすぐにご破算となった。
「八尋、ちょっといいか?」
男が一人、速人に向かって声をかけた。下を向いていた速人が目を向けると、同じクラスの江越俊介が立っていた。
「俊介か。どうした?」
同じクラスなのでもちろん面識はある。しかも速人と俊介は席が近く、クラスの中でも特に仲がいい方だった。
お調子者で明るい俊介はクラスでも人気者だ。
「ちょっと頼みがあるんだよぉ」
すがるような目で速人を見つめてくる。
嫌な予感がしたが、速人は先を促した。
「こないださ、クラスのやつと飲みに行ったんだ。そこでベロンベロンに酔っちまったんだ。それで近くの席にいた二人組と揉めちまったんだよ。店の外へ出て適当に殴ったりしちまった」
「しょーもねえことしてんなあ。それで?」
「昨日、授業の後、駅前のカラオケに行ったんだよ。そしたら帰り道でその揉めたうちの一人とはち合わせしちまった。そいつは俺に文句を言いながら、誰かを呼び寄せたんだ。そしたら腕に包帯を巻いたやつが現れた」
「揉めたうちのもう一人か。よく聞くような話だな」
そう言って速人は笑ってしまった。
「笑いごとじゃねえよ。そいつが言うには骨が折れたって言うんだよ。慰謝料をよこせって」
「いくら払えって言われたんだ?」
「二百万。俺は殴っただけで腕なんか怪我するわけないんだけどな」
「そんなの無視しちゃえよ。それか捕まえて包帯を外しちまえ。多分、無傷で綺麗な腕を見られるぞ」
「それが無理なんだよ。なんと相手は……」
最初のコメントを投稿しよう!