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速人は部屋に戻り、スーツを脱いでTシャツにジーンズというラフな格好に着替えた。革靴も脱ぎ、スニーカーに履き替える。
財布から一万円札と免許証や保険証などの大事なものを抜き取り、机に入れる。
すべての準備が整い、速人が部屋を出ようとした時、ドアが勝手に開いた。
「どこか行くのか?」
坊主頭の大男、ニコがそこに立っていた。
「お前、勉強会はどうしたんだ?」
「今日はパスだ。頭が疲れた」
そう言って頭を振りながら、部屋に入ってくるニコに速人は事情を説明した。
「まあ、そういう訳なんだよ。めんどくせえけど、俊介が可哀想だからな。とりあえず一緒に行ってくるわ」
「何時に行くんだ?」
「今からだよ」
「そうか。わかった」
速人は頷いているニコの横を通り、廊下に出る。
俊介の部屋に向けて速人が歩き始めると、ニコが当たり前のように一緒に歩き始めた。
「何だよ。お前も来るのか?」
「面白そうだからな」
「物好きだな。話、ちゃんと聞いてたか?」
速人はそう言ったが、ニコが一緒に来てくれるのはありがたいと思った。
本心を言えばニコに説明したのは一緒に来て欲しかったからだ。
ニコもそんなことはわかっているはずなのだ。だからニコは「一緒にいってやろうか?」などとは言わない。付いてくる理由も適当。
普通の仲間ならこんなことには巻き込みたくはない。しかし速人とニコは親友だった。戦友だった。立場が逆なら速人は迷わず付いていく。
速人はあまり人に頼るタイプではないが、ニコに対してはあまり遠慮の気持ちは無かった。
「おおー、助っ人まで用意してくれたのか」
俊介はニコを見るなり、また拝み始めた。
ニコはそれを見て苦笑いを浮かべる。
「それじゃあ、行きますか」
速人の言葉で三人は研修所の正門を抜け、約束の公園へ向かって歩き始めた。
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