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「なんだとっ! そんなくだらねえことで事務所に連れてくるんじゃねえ」
「いや、だってやつらうちのこと舐めてやがりまして」
「舐められてんのはてめえらだろうが。仕方ねえ、奥へ連れて来い」
二人はドヤ顔で戻ってきた。
「おい、てめーら、兄貴が話してくれるそうだ。ついてこい」
速人らは言う通りにする。
奥に向かって歩いていくと、男が立っていた。
窓の外を眺めているのか、背を向けているのでその男の顔は速人たちからは見えなかった。タバコの煙を窓に向かって吐き出している。立派なスーツを着ていてさっきまでの二人とは明らかに身分が違うようだった。
「随分と威勢のいい兄ちゃんたちらしいな」
その男は背を向けたまま話しかけてきた。
「いや、ただこいつの免許とか返してもらいたいだけですよ」
速人は男の背中に向かって返事をする。
「事情は何であれ、うちのもんと揉めたらしいな。随分と舐めたことしてくれるじゃねえかよ」
「別に舐めてないですよ。ただ何となくそんな感じになっちゃっただけで」
「のこのこと事務所に来るってこと自体が舐めてるってことじゃねえか!」
そう言って怒鳴りながら男は振り向いた。
男はさらに恫喝しようとしたようだったが、途中で目の色が変わる。
速人も記憶の中が刺激された。
あれ? こいつって。
「八尋軍曹じゃないですか!」
「博か。高代博だろ、お前」
速人の目の前にいる男、高代博は以前、髪の毛を短く刈り揃えていた。今は首の半ばあたりまで髪を伸ばしている。後ろ姿が全然違うのも無理はなかった。
「ニコさんまでいるじゃないすか。お二人ともお久しぶりです」
そう言って博は頭を下げる。
高代博。速人とニコは海兵隊にいた頃、この男と同じ部隊にいたことがあった。彼の階級は上等兵で速人の分隊の一員だった。
カニの化け物から世界を守った戦いに一緒に従軍したのだ。ちなみにその戦いはクラブ戦役と呼ばれている。
一度、彼はクラブのタコ足に捕まり死にかけたことがあった。その時、速人が遠距離射撃でクラブの急所を撃ち抜きその化け物を倒した。そして倒れている博を抱きかかえて安全な場所まで運んだのがニコであった。
年齢は速人の二つ上。二十七歳だ。階級がすべての軍隊では年など関係なかったが、復員した後でも年齢より階級を重んじる兵士は多い。
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