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「いやあ、まさかこんなところでまたお二人に会えるとは」
「俺もびっくりだよ。その年で幹部さんとは大したもんだ」
「久しぶりだな」
ニコの言葉はいつものように短いが、その口調から速人にはニコが喜んでいるのがわかった。
「はい。ニコさんもお元気なようで」
俊介は事態に付いていけず口を開けて、ただ突っ立っている。
「でさ、こいつの免許証とかなんだけど……」
「ああ、そうでした。おい、関川。すぐに返してやれ。全部だ」
関川と呼ばれた男は例の二人組のうち、怪我をしていなかった方だ。
関川は何が起こっているのかわからない様子だったが、博に言われるとすぐにどこかへ消えていった。
すぐにビニールケースを一つ持って戻ってくる。それを俊介に渡した。
「何か足りない物はあるか?」
博が俊介に向かって尋ねる。
「大丈夫みたいです」
「兄ちゃんには迷惑かけたな。これで勘弁してくれ」
そう言って博は自分の財布を取り出し、そこから無造作に一万円札を何枚か取り出した。それを俊介に向かって渡そうとする。
「いや、もらえないっすよ」
首をブルブルと振る俊介。
「いいから、いいから。取っておいてくれよ」
俊介はチラリと速人の方を見た。
「大丈夫だと思うよ。もらっておけば?」
「じゃあ、すいません。ありがたく」
そう言って俊介は、賞状でも貰う時のように背筋を伸ばし、両手でそれを受け取った
「それじゃあ、兄ちゃんはもう用は無いよな。こんなところにいるのも気分よくないだろ。帰っていいぞ」
博の言葉に俊介の顔がパッと明るくなる。
「それじゃあ、すいません。俺はこれで」
そう言って来た時とは正反対の弾むような足取りで出口へ向かって歩いていった。
「じゃあ、俺たちもこれで帰るわ。会えてよかったよ」
速人にしてもこの場所は決して居心地のいいものではない。意外な旧友との再会はあったが、さっさと帰りたいというのが本音であった。
「いやいや、何をおっしゃいますか。せっかく久しぶりに会ったんですよ。今夜は帰しませんよ」
博はそう言ってニッコリと笑っている。
ニコの方を見ると苦笑いしている。
俊介が出ていく音が聞こえた。
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