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「仁科君、野球やってたの?」
「まあ中学の頃、少し」
見ると相手チームには達也とニコの姿がある。達也は小学生までしか野球をやっていなかったはずだが、運動神経は抜群だ。ニコは確か中学の途中までだったはず。二人とも侮れない相手だった。
速人は高校球児だった。それも毎年の目標を〝全国制覇〟とするような高校だ。彼は二年時から不動のレギュラーだった。俊足で強肩のショートストップ。打順は主に一番。
残念ながら甲子園には出場していない。二年時も三年時も県予選の決勝で夢破れていた。
「よし全部、八尋君たちの勝ちに賭けよう」
涼子が何の迷いもなく言った。彼女は美人で一見近寄りがたいが、よく知れば豪快で美人を鼻にかけることのない、どちらかというと男勝りな女性だった。
涼子が言えばほとんどの男は逆らわない。彼女は女性にも人気があるので自然と涼子の言葉どおりの展開になる。涼子はすべてのビール券を持ち受付に向かう。
達也たちの方を見ると、茜も大量のビール券を持って受付に向かっていた。
さて、どんなもんかねえ。
速人は仁科とキャッチボールをしながら久しぶりに軟式球の感触を味わっていた。
「プレイボール!」
野球経験者らしい逸見の声で試合は始まった。彼が審判だ。
速人たちは後攻。慣れ親しんだショートの位置につく。
仁科がキャッチャーマスクをかぶる。速人たちのチームの投手は背の高い男で高校球児だったらしい。投げる球は120キロに満たないくらいだろうか。
簡単に二つアウトを取り、三人目。
バッターは達也だった。歓声が鳴り響く。人気者の達也に対する女性の声だ。
三球目、達也の振ったバットはボールを鋭くとらえた。
三遊間を強烈な打球が抜けようとする。
しかし速人は素早く横に移動し、ボールに向かって飛ぶ。
吸い込まれるようにグローブに入る打球。
素早く立ち上がり、一塁めがけて送球する。達也も俊足なのでギリギリでアウト。
ざーんねんでした。
速人は心の中で呟く。
「何だよ、そんなの捕るんじゃねえよ。それに何だ、その肩は。このサイボーグ野郎」
達也が笑いながら大きな声で速人に文句を付ける。
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