球技大会

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 攻撃の番になり、速人は一番なのですぐにバットを振り始める。  速人たちに賭けた人々からの声が聞こえてきた。 「何だ、あいつ。すげーじゃん」 「いいぞー、八尋」 「八尋君、頑張ってねー」  最後の声は彩菜だ。 「負けたら承知しないからね」  この声は涼子だろう。  相手チームの方を見ると、茜の姿が見えた。  表情で何を思っているのかわかる気がする。 『むむむ。少しは手加減しなさい』  きっとこんな感じだ。  そして右のバッターボックスに立つ。  一球目を見逃す。ストライク。  思ったより球が速い。120キロ後半くらいだろう。  二球目。外角に外れたボール球だがカーブだった。  三球目。ストライク。今度はスライダーだ。  次の球はストーレートだが外角を僅かに外れてボール。  変化球も投げ、コントロールもなかなかだ。  うーん。これではなかなか打てないだろうな。  そう思っていると、ピッチャーが振りかぶり、次の球が来る。  俺以外はね。  速人はバットを振り抜いた。  白球はレフトの頭を越え、さらにその先のフェンスを越えた。  速人はゆっくりとバットを置き、ダイヤモンドを一周する。先制点。  仁科とハイタッチを交わす。チームの仲間にもみくちゃにされる。 「すごーい」  彩菜が両手を握り、目をキラキラさせながら声を上げている。  涼子は隣で何度も頷いている。  久美子と由紀は顔を見合わせて何か話していた。  速人は彩菜に向かって片手でガッツポーズをする。両手を振って喜ぶ彩菜。  攻撃はその後、あっさりと終わる。  そして次の回の相手の攻撃。  バッターは四番のニコだった。初球のストレートを強振する。高く上がったボールに、速人は一瞬だけ安心したが、センターがどんどん後ろに下がっていく。そのままボールはセンターのフェンスを越えていった。  相手側の応援団が一斉に大騒ぎを始める。 「お前、人じゃねえだろ?」  二塁を踏み、三塁に向かうニコに向かって速人は言った。  チラリと速人を見て無言で口を歪めるニコ。
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