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『太平洋高気圧が日本列島に大きく張り出しており、
夜中まで快晴の見込みです』
テレビから流れてくる声に顔を向けると、
画面内の地図上に笑顔の満月が踊っていた。
食器を置く拍子に鳴った音で、
窓際に逆さ吊りにされたてるてる坊主が小さく揺れる。
八つ当たりで消された暗い画面に、
はっきりと隈が出来た顔がぼんやり映った。
食べかけの朝食を冷蔵庫に入れ、
重たい足と心を引きずりながら部屋を片付ける。
何ヶ月かぶりに引っ張り出された掃除機は、
すっかり埃を被っていた。
カラカラ、とタイヤが軋んだ音を立てて、
私の後ろについてくる。
彼と二人で出かけると子犬のように後を追いかける私が、
乾いた虚しい音の主に重なってみずぼらしかった。
気付けば太陽は南中していた。
昼食がてら夕食の買出しに、と
着ていく服をクローゼットから見繕う。
普段は弾んだ心で、時には鼻歌まじりで開ける扉が、
今日は何だか重苦しく感じられた。
台所の方から、
オルゴールのようなメールの着信音が聞こえた。
手にしていた3番目にお気に入りのワンピースを放り、
飼い主に呼ばれた子犬のように飛んでいく。
『仕事の都合で呼び出されたから、
そっちに行くの6時過ぎ。
すぐ終わると思うけど、
遅れるようなら電話する』
無理しないで、と
いつもなら考えもしない返事を送りつけそうになって、
慌てて頬を強く叩いた。
『りょーかい』
文字の後ろで笑っている絵文字が、
悲しい嘘を見抜いた嘲笑に見えた。
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