かくしごと

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「ごちそうさま」 カタン、と透明なグラスがテーブルと当たって音を立てた。 目の前で座る彼は、 その力強そうな見た目とはあまり似合わない、 少年のような優しい笑顔を向けてくれた。 「そういえば、  何でてるてる坊主なんて飾ってるの。  しかも逆さ吊り」 彼の言葉に、慌てて窓の方に目をやる。 閉められた薄いカーテンに、 小刻みに揺れる小さな影が映っていた。 まあいろいろとね、と曖昧に返事すると、 彼はふうん、とだけ言って テレビの前のソファーに腰を下ろした。 「そういえば、  隠してたこと、って、  何?」 彼はこちらに目をやると、 笑顔をすっかり表情から消した。 手招きする彼を見て、 食器洗いもそこそこにソファーの隣に座る。 「何があっても、  驚かない?」 彼の言葉に首肯くと、 彼は徐に立ち上がって窓際に立った。 ゆっくりとぎこちなく手を伸ばし、 そっとカーテンを開けていく。 止めて、と声をかけようとして、 でも声にならなかった。 慌てて両手で顔を隠す。 「顔を上げて」 彼の声に、自分の手が何ともないのが解り、 そっと手を下ろした。 大きな窓から、 月の光が差し込んでくる。 その中に、 「……うそ」 ──鹿、だった。
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