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第五幕『これからの始まり』
医務室の脇に、隆義が座っている。
目の前には理知的な印象の少年──明らかに隆義よりも年上だ──と、先の中性的な、果たして彼か彼女か、どちらなのか解らない者。
そして──パソコンの画面の中からこちらを覗き込んでいるアニメの顔があった。
彼ら不思議な面子を前に、隆義は少し緊張した面持ちで、椅子の上に座っている。
「それでは、自己紹介から始めよう」
少年は穏やかな顔で、全員に語り掛ける。
「まず最初に謝っておくけど、僕たちが名乗る名前は本名ではないという事を、頭に入れておいてほしい。──僕は、ラウンドだ」
ラウンド、その意味は「円形」。
「続いて、ボクはココ。よろしくね」
ラウンドに続いて口を開いたのが、中性的なココだ。さらに──
[私は名前が知れてしまっているので、あえて本名ですよ。ネットアイドルやってます、AIシステムのあいちゃんでーす]
「あぁ……よろしく」
隆義も、あいちゃんの姿は雑誌で見た事があった。
ただ、本屋で雑誌の表紙に出て来ては、前を通り過ぎるだけの存在ではあったが……
「俺は……夕凪 隆義。市内の南区にある、霞中の生徒だ」
隆義は少し緊張はしていたが、固まる程でもない。ただ、淡々と答える事ができた。
「それでは、夕凪君? 早速だけど、君が広島市内で何を見たかを教えてほしい」
「……解った。……俺は、二日前に同じ学校の不良たちからリンチをくらって、ケガで学校を休んでいたんだけど──今日の朝は痛みも治まって、外に出てみる事にしたんだ」
「その時に、街に変化は?」
「比治山に向かっていたんだけど、途中で交番がある辺りで爆発が起きて、急いで逃げた。そして、とにかく隠れなきゃと思って、山の中に入った」
「爆発があった場所は──説明、できるかな?」
「地図があれば」
「解った。すぐに出すよ」
言いながら、ラウンドはスマートフォンを取り出し、手慣れた手つきで、その画面上に広島市の地図を表示する。
「南区の霞中学校に通ってるんだよね。家は南区に?」
ラウンドの質問に、隆義は無言で頷いて答えた。
「解った、それじゃあ南区の表示を拡大しておくよ」
隆義の目の前に、地図を表示したスマートフォンが置かれる。
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