第一話 本気かどうか

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日はとっくに暮れ、夜中の十一時をまわっていた。 俺は気になることがあったので、仕事帰りに佑衣斗兄ちゃんへ電話をかけた。 『あ、もしもし唯那か?久しぶりだな!一人暮らしはもう慣れたか?』 相変わらずの声が聞こえてホッとする。 「慣れたかって、もう三年目だから慣れたに決まってるだろ!今日は聞きたいことがあるんだ。」 『唯那からの電話とか久しぶりだからな!どうした?』 「佑衣斗兄ちゃんは、高校の時に、告白された人はいた?」 『なんだよ急に。んー……、覚えてない。』 「だよな。あ!……こんなの聞くのは変だけど、男の人からとかはいた?」 『居たぞ。』 衝撃のカミングアウト!なんてサラッと言ってやがるんだ!! 「そ、そうなの?誰からされたか覚えてる?」 『覚えてない!男からも多かったしなー。』 佑衣斗兄ちゃんは男女関係なく優しくて人気があったんだな…。 「そっかー、変なこと聞いてごめんな!それじゃあ……」 俺が電話を切ろうとするとまだ佑衣斗の声が聞こえて、切るのをやめた。 『あ、ちょっと待て!唯那!これから飲まないか?もう仕事、終わったんだろ?』 俺は少し考えたが、断った。 「悪い。今日は無理だ。」 『……そっか。あ、近い日に唯那の所に行くから!唯那の顔、見たいしな!』 「分かった、分かった。それじゃあ、もうついたから。」 『うん、またな。』 そして俺は佑衣斗への電話を切り、着いた場所を見上げた。 そこは病院。 腕時計を見て、ため息をつく。もう面会時間はとっくに終わっている。なのに来てしまう。 「幸代……会いたいな。もう目が覚めないで一年か…。」 一年前、俺は幸代にプロポーズをした。 『本当?!嬉しい!!』 幸代は泣いて喜んでくれた。俺も嬉しかった。 けれど交通事故にあって、目が覚めないでいる。 俺の好きな人。早く目を覚めてほしい。 次の日、仕事場に行くと中山が部長部屋から出て来ていて、ある人と喋っていた。 「おはようございます。」 「おはよう。」 一応、中山は上司なのであいさつをしたら昨日あんなことをしたのにあっさりと返事がかえってきた。 喋っている二人の横を通ると、 「ちょっと待って!」 そう言われて立ち止まり、少し訝しげに振り向いた。 「なんでしょうか?」 「やっぱり君、下里 唯那だよね?」 「はい、そうです。」
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