第1章

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ここはどこだろう。 僕は立っていた。何もない丘で、誰もいない空間で。夜というのだけはわかった。だが、周りの景色に覚えはなく、自分がここにいる理由も、いつからいたのかもわからない。ただ、立っていた。 「どうしたの?」 ふと、声をかけられた。振り返るとそこには一人の女の子が立っていた。髪は長く、顔立ちもいいと思う女の子だ。思うと言うのも僕には感動や喜びといった感情と言うものがなく、自分の意見がない故に他人に対しても一般的な評価しかできないのだ。 「いえ、なにも。」 だからこんな返答しかできない。愛想なく失礼にもとられる態度になってしまうのだ。 でも、彼女は言った。 「君は私と一緒だね。」 僕は彼女の目を見た。綺麗な顔とは裏腹に腐りきった世の中を見つめているような目だった。それは、他人との関わりを嫌がり拒絶している、そんな目だ。 「どこが一緒なの?」 僕は聞いた。なぜ、彼女が僕と一緒と言ったのかわからなかったから聞いた。 「他人を信用していないところとかかな?心と言うものが感じられない目をしてる?みたいな?」 少し首を傾げながら彼女は答えた。確かに心はない。感情と心が一緒と言うのなら、ないと言う表現は正しい。 「なら、お前には心がないのか?」 僕はさらに質問を続けた。 「心はね、あったよ。昔はね。」 なるほど、彼女は捨てたのだ。何があったか知らないが彼女は心を捨ててしまったのだ。だから、あの目をしていたのかと僕は自分の中で納得した。 「君はどうしてここにいるの?家族は?歳は?」 急に連続した質問が来た。振り替えると彼女は興味心の塊のようにこちらを見ていた。 「ここにいる理由はわからない。家族はいない。歳はお前と一緒くらい」 適当に目をそらしながら答えた。すると彼女は視界に無理矢理入ってきた。何をするわけでもないが、また目をそらすと、頭を捕まれグリッと彼女の方に視線を固定された。 「なに?」 かなり無愛想に聞くと。 「帰る場所はあるの?」 彼女は聞いてきた。僕は答えなかった。心のない僕と心を捨てた彼女は向き合い目を合わせながら、沈黙が続いた。そして、 「帰る場所がないなら、家においでよ。家族とかいないし。一軒家だから部屋も余ってるよ。」 彼女は頭から手を離して歩き出した。丘を下っていく彼女を見つめながら後を追うように僕も丘を下った。
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